風に吹かれて
RED STONE ブリッジ鯖でまったり活動中。
旅は道連れ シーン3
3.
――シュトラセラトの街並みはやっぱり綺麗だ。
キラキラした夜の街の灯りは、私の心をまるで子どものように躍らせた。
我を忘れて見とれていると、キャメリアが遠くの方から私を呼んだ。
「お~い、何やってるの、早く行くよ~。」
「…あ、はーい!」
そこは、街の外れにあった。
キャメリアが、ドアを開ける。
「さぁ、ようこそここがうちのギルド "雪月風花(せつげつふうか)" だよ。」
泥酔したクロッカスは、まだキャメリアの肩を借りたままだ。
「ほら。クロッカス。ギルドホールについたよ~。」
「…んあ…?」
私は"ギルドホール"という響きに、またもや心が躍った。
「…キャメリアさん。すごいです! ギルドホール、格好良いです!」
キャメリアはクロッカスを床に座らせながら、ちょっと恥ずかしいような表情を見せた。
「そ、そう? そう言われると照れちゃうな~。」
はしゃいだ私は、ギルドホールの中を見て回った。
様々な武器が並んだ倉庫に、紋章が入った旗。奥には巨大な石像がある。
どれもが格好良くて目を奪われた。
その時…。
「わぁっ!!!」
私は夢中になっていたためか、人がいることに気付かなかった。
ギルドホールの奥のほうに、背の高くて細い男が座っていたのだ。
「あ、す、すみません…。お邪魔しております。」
会釈した私に対し、背の高い男は無言で私を睨みつけた。
「……。」
「ひぃっ…!」
私は怖くなりキャメリアのほうへ逃げた。
「あれ。何だ、ルピナス。いたんなら声かけてよね~。」
「……。」
ルピナスと呼ばれた男はキャメリアの言葉に対しても無反応だった。
「ごめんね、あいつああいう奴だからさ。気にしないでね~。」
「はっ、はい…。」
キャメリアは私を安心させるためかニコッと笑って話し続けた。
「彼の名前はルピナス。職業はウィザードだよ。」
「ウィザード…? って、魔法使い!?」
キャメリアはフッと笑う。
「そう。彼は無口だけどああ見えて頼りになるんだ~。うちの大事なギルメンだね。」
「へええ、そうなんですか…!」
ルピナスのほうを恐る恐る見ると、またギロリと睨まれた。
「や、やっぱり怖いい…!」
「あはは。もうすぐ、うちのメンバーみんな帰ってくると思うから、ついでにみんな紹介するよ~。」
キャメリアがそう言うか言わないかの間に、2人のギルドメンバーが帰還した。
「あぁ~、今日もだるいな…。ん、何だクロッカスの奴、また飲んだくれてるのか?」
そのだるそうな声の持ち主は、大きな鎌を携えた女性だった。
「おっ、皆さんお揃いですね! あれ、そちらの方は…?」
もう一人の優しそうな声の男は、どうやら聖職者のようだ。
キャメリアはコホンと咳をした後、得意げな顔で話し始めた。
「この子は、今日スカウトしてきた新人さ! 名前は…、えっと、ゴメン、何だっけ?」
「もう、しっかりしてくださいよ。マスター。」
聖職者の男は半分呆れ顔だった。
「えと…、名前は、アイリスと申します…。」
私が恐る恐る発言するや否や、キャメリアがまた得意げな顔をする。
「そうそう、アイリスっていうんだった。みんな、よろしくね~。」
「…よろしくお願いします。」
私はペコリと頭を下げた。
続けてキャメリアは喋る。
「アイリス。こっちは、霊術師のダリア。怒らせると怖いから気をつけてね~。」
「はぁ、怒るなんて面倒なことするわけないだろ。」
ダリアは見て分かるようにため息をついた。
「そしてこっちが、ビショップのフリージア。回復は彼におまかせ!って感じだね~。」
「どうも! 僕に任せてくれればどんな狩り場でも問題ありませんよ!」
フリージアは自信満々に笑ってみせた。
「というわけで!」
キャメリアの明るい声で私は彼女のほうへ向く。
「今日からよろしく! アイリス。」
「えっ…? よろしくって、な、何をですか…?」
私の戸惑った顔に、キャメリアは不服そうな顔で答える。
「何って、ギルドメンバーとしてこれからよろしくってことさ。」
「えっ…、私なんか初心者ですし…。皆さんにご迷惑を…。」
私はキョロキョロと周りを見渡した。
「袖すり合うも多生の縁…。アイリス、これも何かの縁なのさ。」
キャメリアの言葉に、フリージアは笑顔で頷いた。
「あなたもそう思うでしょ? クロッカス。」
「…んぐぁ…?」
突如キャメリアに名前を呼ばれたクロッカスは、寝ぼけまなこだ。
「あ、ありがとうございます…! ご迷惑を掛けるかと思いますが…、どうぞ、よろしくお願いします…!」
「「よろしく~!」」
キャメリアとフリージアは笑顔で拍手を送ってくれた。
面倒そうにパンパンと手を叩く、ダリア。
座ったまま目を背ける、ルピナス。
だらしなく寝たままの、クロッカス。
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旅は道連れ シーン2
2.
日が暮れる頃には、やっと平原を抜けることができた。
――ここは港街、シュトラセラト。
私は幼い頃、今は亡き父に連れられて一度だけこの街へ来たことがある。
高級住宅街が並ぶキラキラしたこの港街は、ずっと私の憧れだった。
あの煙草の人には助けてもらいはしたけど、今はここに一人で来ている。
「街の中心地はたしか、こっちだったかな…」
私の故郷はガリムトという名の小さな農村だ。
村は本当に良い人たちばかりで、私は、母をはじめ色んな村の人たちの愛情を受けて育った。
でも私には、何故だか分からないけど、いつか旅に出なくてはいけない気がしていた。
母には「あの人の血を引いてるからかしら…」と頭を抱えられたが、私にはその気持ちを抑えることができなかった。
――17歳の誕生日。
ちょうど今朝、私は母と村のみんなに、必ず戻るからと伝え旅立った。
だけど、あんな怪物がいるのは完全に計算外だった。
村と港街を繋ぐミルトリムの道は、ウルフやトレントといった弱いモンスターしかいないはずだった。
今日、あの人に助けてもらわなかったら、私は今ここにいないだろう…。
しばらく思いにふけっていると、いつしか街の中心部まで来ていた。
シュトラセラトの中心地には、酒場「ブルースビストロ」がある。
港ならではの海鮮を使ったメニューも多数あり、食堂としても人気が高い。
「お腹すいた…。」
とりあえず入って、何か食べよう…。
私は酒場のドアを開けた。
落ち着いた雰囲気の店内に、心地よく響く歌声。
ここも、どこか懐かしい。
「あっ!!」
私は思わず声をあげた。
そこには、昼間私を助けてくれた男がいたのだ。
「あなたは、今日の…!」
私は思わず駆け寄った。
だが…。
「んんん~??? 何だおめぇはあ???」
片手には酒瓶。その男は、見事に出来上がっていた…。
「うっ…お酒くさい…。」
私は思わず肘で自分の顔を塞いだ。
すると男の隣から声がした。
「あら、君は…格好から察するに冒険家さん? にしてはかわいいなぁ。」
見ると、背が小さく愛らしい瞳の女の人がこっちを見てニコニコしている。
「あ、いえ…。今日旅に出たばかりの未熟者です…。」
「…あああんだとぉ~。ウィスキーを持ってこい。」
男はもう完全に酔っぱらっている。
「あなたはもう飲まなくていいから~。はいはい、寝ましょうね~。」
「…なんだとぉ…。 ……。」
女の人はまるで子どもを寝かしつけるかのように男の背中をポンポンと叩いた。
「ごめんね~。この人、こんなで。君はこの人に何か用があったようだけど、今日はもう無理かな。」
「そ、そうですか…。」
呆気にとられる私を見て、女の人はさらにニコッと笑った。
「私はサマナーのキャメリア。そしてこの酔っぱらいはシーフのクロッカス。君は?」
「あ…、私は、アイリスと申します。」
私はしどろもどろに答えた。
「あ、あの…それより、サマナー?シーフ?って何ですか…?」
「あぁ、いわゆる職業だよ!」
「…職業、ですか?」
「そう! みんな、自分の特技を生かして戦うのさ。君は…。」
キャメリアは私の身体を舐めるように見回した。
私は母から持たされた弓と矢を携えていた。
「君は、その弓と矢で戦うのかな? いわゆるアーチャーってわけだね。」
「あ、アーチャー…!?」
私はその響きにひと時の感動を覚えた。
するとキャメリアは私の顔をじっくりと眺めた後に、言った。
「ふふ。君、面白いなぁ。ちょっとうちのギルドにおいでよ。」
「ふぇっ!?」
「いいからいいから。ほら。行くよ。」
キャメリアは立ちあがり、コートを身に纏う。
一瞬髪の隙間から見えたイヤリングが驚くほど光り輝いていた。
よく見たらブーツも格好良い。これが大人の女性というやつなのか?
「クロッカス、起きて。行くよ~。」
「…ふがぁ。…イテテ、何すんだあぁ。」
さっき寝かせたのは自分なのに…と内心ツッコミを入れながら、私はキャメリアの後に続いて歩いた。
旅は道連れ シーン1
1.
――どこまで逃げれば良いの!?
私はとにかく逃げるのに必死だった。
巨大な怪物が牙をむいてどこまでも追いかけてくるのだ。
私は走りながら少し後ろを振り返る。
亀? 恐竜? それともドラゴン?
何なのかよく分からないけど、分かっているのは私を狙っていることだけ。
もしもあんな怪物に捕まったりしたら食い殺されてしまうだろう。
だが辺りは平原。申し訳程度に生えている木など、隠れ場所にはならない。
「だ、誰か!! 助けてー!!!」
走りながら叫んだ声もむなしく、灰色の空に溶けていく。
どこまでも続く地平線に人の影などあるはずもなかった。
「あっ!!!」
その時、私は太い木の根に足をすくわれ、転んでしまった。
顔を上げると、そこには目を光らせた怪物の姿。
逃げ、逃げなきゃ…!
「痛っ…!」
私は足をくじいてしまっていた。
これではもう、走れない。
――こんなところで死ぬのかな、私…。
皆を振り払って村を飛び出してきたのに、このザマ。
「ご、ごめ…んなさい…。ごめんなさい…。」
私は涙が止まらなかった。
ちゃんと母の言うことを聞いていればよかった。
私はここで、誰の役にも立てずに死ぬんだ。
「おい。何、モンスターに謝罪してんだ?」
「…ふぇっ!?」
急に聞こえた声に驚き顔を上げると、そこには一人の男が立っていた。
右手には短剣。左手には…煙草?
「…ああ。助けてください。怪物が、襲ってきて…って、ええ!?」
振り返るといつの間にか怪物は倒れていた。この人が倒したのだろうか?
「あ、あぁ…。助けてくださってありがとうございます…。」
「別に構わん。こんなモンスター、寝ながらでも狩れる。」
男は白い煙を吐きながら、怪物の死骸を漁っている。
私は一度に色んな出来事がありすぎて、少しの間ぼーっとしてしまっていた。
「ちっ、目ぼしいドロップは無しか。…おい。何見てる。」
「あ…、いえ…何でも…ありません。」
「ふん。」
男はバッグを持ち上げ、歩き出す。
「じゃあな。せいぜい気を付けろ。道なりに歩けばモンスターには遭わねえ。」
「あっ、待ってください。私、アイリスと申します。あなたのお名前は…。」
「…名乗るほどの者じゃねえよ。じゃあな。」
気がつけば男の姿は見えなくなっていた。
しばらくぼんやりしていた私は、ふと我に返った。
「痛っ…、そういえば、足をくじいたんだっけ。街まで歩けるかな…。」
私は立ちあがろうと手をつく。
そのとき、私の手に何かが触れた。
「…?」
そこには、赤い液体が入った瓶が転がっていた。
――さっきの人がくれたんだ!
おそらくこれはヒールポーション。
私は心の中で何度も感謝をし切れないほど感謝をした。
一気に飲み干すと、もう足の痛みはなくなっていた。
プロフィール
HN:
風の詩。
自己紹介:
MMORPG「RED STONE」ブリッジ鯖でまったり活動しています。GHで寝ていることが多いです。
ほぼチャット勢なので、情報に関しては疎いです。マイペース更新。
X(旧twitter) → @kaze_redstone
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